第49回(2018年)
JXTG童話賞
【中学生の部 優秀賞】

ブリキと向日葵作者:羽渕真穂 / 絵:藤井由美子

八月が、好きでした。

僕が高校生だった夏、よく自転車をこいで昔住んでいた隣町に行ったものです。そこには向日葵畑が広がっていて、夏休みの部活帰りはいつも、その向日葵を見に行ってから帰りました。向日葵を元気いっぱいに咲かせてくれる暑い暑い八月が、僕は大好きでした。

あの日も、僕は向日葵畑に行きました。そう、忘れもしない、あの日の出来事……。

部活のないお盆休み、その年は僕の弟が高校受験を控え、勉強のため帰省はしないことになりました。僕はお盆の間も、毎日向日葵を見に行きました。それも、カメラを持って。

あの日は、そんなお盆休みの一日でした。

朝の十時に家を出て、自転車のペダルをぐっと踏んで進むと、涼しい風がやって来る。これも、僕が夏のサイクリングを好む理由の一つです。隣町に入ると、昔の僕の家だったマンションがすぐ現れます。僕の家だった二〇四番の部屋は今、誰の家になったのでしょう。隣の部屋だった友達はどうしているでしょう。故郷に思いを馳せながらペダルをこいでいると、向日葵畑がだんだん見えてきます。

僕は自転車を道端に停め、首からさげたカメラの電源を入れました。カメラを構え、青空と向日葵の比が三対二になるようにパシャリと一枚。これが僕のこだわりでした。もっと違う角度から撮ろうと自転車のサドルに跨った、その時でした。ガサガサ、と向日葵の中から音がしたのです。僕はその音に気づき、向日葵畑をもう一度見ました。

男の子が、いました。小学一年生くらいの麦わら帽子を被った男の子が、向日葵の隙間からひょこっと顔を覗かせていたのです。僕の方をじっと見つめていました。僕も彼から目が離せませんでした。

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