第46回(2015年)
JX-ENEOS童話賞
【一般の部 優秀賞】

七十回目の夏作者:樋口佳帆

七十回目の夏

青い青い空の下、ミンミンと蝉が鳴く暑い夏、今年も八月十五日はやってきた。
「あなた、今年も来ましたよ。」
京子は目の前の墓石に向かって微笑みかけた。そして、手桶の中に満杯に汲んだ水を、ひしゃくですくって墓石にかけていく。
「少し暑いですけれど、九州といえど、東京のような風通しの悪い暑さではありませんね。やっぱりここにお墓を建ててよかったわ。」
京子は手を止めると、その場にしゃがみこんで墓石をじっと見つめた。
「……あれから、戦争が終わってから、七十年が経ちましたよ。私も今年で八十九歳です。でもまだ七十年なのね。もう百年は過ごした気分でしたのにねえ。」
ぽつり、と呟いてから京子はまた手を動かし始める。しわくちゃの手で絞った手ぬぐいで丁寧に拭いていく。
しばらく経つと、突然後ろから
「おい、ばあちゃん。」
と言う声が聞こえた。京子が振り返ると、そこには見知らぬ、高校生くらいの学生服を着た少年が立っていた。歳は十七前後といったところだ。
「なあに?」

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