第39回(2008年)
JOMO童話賞
【一般の部 優秀賞】

テーラーすみれのお客様作者:笠原光恵

テーラーすみれのお客様

『男はさりげなく、おしゃれの秋』
 店の入り口のガラス戸には、白い紙にたくましい墨の文字でそう書いてある。
 ぼくの父ちゃんは仕立て屋だ。死んだじいちゃんが始めた、『紳士洋品店テーラーすみれ』のあとを継いでワイシャツや背広を作っている。酔っ払うといつも、
「ユウタの成人式のスーツは父ちゃんに縫わせてくれよ。ネームししゅうは無料でサービスするぜ。」
 なんて言う。『すみれ』って言うのは、じいちゃんの娘、つまりぼくの母ちゃんの名前だ。その母ちゃんも、今は遠い『あの世』にいる。
「行ってきます。」
 ぼくはランドセルを背負いながら、朝ごはんの片づけをしている父ちゃんの背中に向かって言った。  家を出るとき、店のガラス戸の、例の文字が目に入る。
「ぼくは、断然『食欲の秋』なんだよね。」
 そうつぶやいたところに、ミッコちゃんがやってきた。
「おはよう。今日の調理実習、楽しみね。『食欲の秋』のユウタさんには最高の日ね。ちゃんとサンカクキンは用意した?」
 しまった、忘れていた。エプロンは家庭科の時間に自分で縫ったばかりのが学校にある。今日はそれをつけて、味噌汁とご飯を作る日だった。でもサンカクキンだけは家から持ってくるように、先生に言われていたんだった。
 ぼくはガラス戸を開けると、家の中に向かって父ちゃんを大声で呼んだ。
「父ちゃん、ゴメン。今日学校でサンカクキンを使うんだよ〜。ないと先生に怒られちゃう。急いで縫って学校に持ってきて。おわびに、晩ご飯はぼくが作るから。」
 父ちゃんは胸をたたいて、
「最高のサンカクキンをお届けするぜっ。」
 って言ってくれた。これで安心……。

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