そこは田舎の小さな駅。通勤時間でも一日数十人程度。夜の十時を過ぎれば駅員以外は誰もいない。こんな小さな駅が、無人駅にならないのが不思議なほどだ。  駅の待合室に上品な着物姿の初老の春子がボンヤリと座っている。春子は時々独り言を言っているみたいだが、何を言っているのかは分からない。

駅の前にタクシーが止まり、やはり上品な初老の紳士・明男が降りてくる。明男はゆっくりと待合室に入り、春子に、
「こんばんは。」
 と、声をかける。春子もニッコリ笑って、
「こんばんは。」
 と、こたえる。
「隣に座ってもいいですか?」
 と、明男も満面の笑顔。
「もちろん、構いません。」
 明男は少し遠慮気味に春子の横に座る。

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