小さいころからずっと、夜道を歩くときだけは足元ばかり見る。そのせいで人にぶつかったり、自転車に気づかなかったりするのだけれど、それでも私は俯いて――夜道に星が落ちていないかと探してしまうのだ。それにはもちろんわけがある。
 小さいころ私は一度だけ、落ちている星を見たことがあるのだ。月と星が綺麗に見える夜だった。自転車も通れないほど細い道に、幼い私は金色に光る星が落ちているのを見つけたのだ。

  それは手のひらに乗せられるほど小さく、夜の闇をはね返すように、確かに煌々と輝いていた。
  幼い私がそれを見つけて拾おうとした途端、それは闇に飲み込まれるように消えてしまったのだ。
  この話を、今まで何人もの人に話してきたが、未だ信じてもらえたためしはない。
  しかし私は星だと信じて、今も夜道に星を探し続けているのだった。
  何でもない毎日が過ぎる中、ある日私は猫を拾った。黒く美しい毛並みの、一匹の黒猫だった。この猫は日差しの強い昼に、軒下に座っていた。日陰で涼みつつもどこか居心地が悪そうで、私はそれが何となく気になって連れて帰ったのである。
  飼いはじめてからそろそろ一週間たつのだが、相変わらず猫の居心地悪そうな雰囲気は消えない。もとは飼い猫で、前の家が忘れられないのだろうか。それとも、どこかに自分のすみかがあったのだろうか。
  「ねえ、ここじゃ嫌? きみはどこに行きたいの?」
  足元で丸まっている猫にそう聞くと、猫が黒い尻尾をゆらりと振る。
  その姿を見ていると、私はなぜか落ち着かない気持ちになった。

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